心眼
心眼
血に抱かれるように足元を深紅に染め、少年は笑っていた。
刺すような赤い光を反射させているのは、息子の手にある紅に染まった鋼。
鋼からは鮮血が滴り落ちている。
焼けるような殺気。
息子の背後では、漆黒の霧が渦を巻く。
大気が彼の狂気に震え、紅葉が怯える様に舞い落ちてくる。
「……馬鹿なっ!能力の発現が早過ぎるっ……!」
緋影の父、誠一は拳を血が滲み出る程握り締めていた。
自分が『心眼』を発現させたのが十五の時。
『心眼』を発現させた者の記録は少ないが、最も早く『心眼』を発現させた者でも十二の時だ。緋影の場合は能力を一時的にではあるが封じる手製の『眼鏡』を生まれた時からずっと掛けさせておいた。一日や二日、眼鏡を取ったところでこの簡易封印が破れる訳がない。
なのに緋影は『心眼』の能力を僅か八歳で発現させた。
目の前の現実を、誠一は認めたくなかった。
自分の息子の足元には、自分が最も愛した女性が倒れている。体からは生気は感じられない。『心眼』で心を破壊された、虚ろな瞳だけが向けられている。
悲しみに暮れる間もなく、殺人衝動に駆られた緋影が自分の『心』を突くべく襲い掛かる。今は緋影の為にも、自分までが死ぬ訳にはいかない。
緋影が見ている自身に映る『心の歪み』を読みきって、斬撃をナイフで弾く。緋影の『歪み』は斬る訳にはいかない。眼を潰す、という手段もあるが根本的な解決策ではない。目を潰しても、『心眼』そのものが消える訳ではないからだ。
自分の力では、現存する封印術では、完全にこの『心眼』の能力を封じる術がない。
ギィン、ギィン!
延々と鈍い金属音のみが辺りに響く。
どの位の時間が過ぎたか。
誠一がほんの一瞬、集中力を切らした瞬間。
赤い鋼の軌跡が誠一の『歪み』、心臓部目掛けて放たれた。
辺りに鮮血が飛び散る。ぼたぼたと鮮血が地面に落ちる。
ナイフでの一撃を、誠一は左手で受け止めていた。手の平をナイフは深々と貫通している。苦痛に顔を歪めながら、
「はっ!」
気合いと共に渾身の蹴りを緋影の腹に決めた。幼く、小さな体が宙に舞う。