だから
だから
大竹を担いで病院にどう行ったのかも覚えてはいなかった。
ただ、ただ、眠る事の無い街を彷徨うだけ。
全てを思い出してしまった緋影に出来た事はただ街を彷徨うことだけだった。
いつのまにか、病院の反対方向に位置する大きな公園にまでやってきていた。
ベンチにどの位の時間、腰を下ろしていたのか。気がついたら雨が降り始めている。
だが雨の冷たさも緋影の心に生きる力を与えてはくれない。
(……このまま雨に打たれていたら死ぬかもな)
……それもいいかもしれない。
自分は、所詮、人殺しだ。快楽殺人者だ。
もう一度あの衝動に襲われたら止められる自信が全く無い。
(……苦しい、深山君)
確かに、彼女はおかしかった。人をすでに殺してもいるようだ。『心』もすでに狂気に取り付かれたかのように闇に覆われていた。
だが。
最後に見せた正気の眼光が蘇る。
あの傷は心臓にまで達しているかもしれない。達していなかったとしても致命傷は間違いないだろう。いくら『心』が無事でも、肉体があれだけの傷を負えば生きている訳が無い。肉体と心は不可分。どちらが欠けても生きていくことは出来ないのだから。
助けを乞う彼女を、苦しみを訴える彼女を、自分は殺してしまった。
生きていてもまた誰かを殺してしまうかもしれない。
……自分の母親のように……
時計の針はカチ、カチと無情に時を刻み続ける。
「どうしたんですか、深山君?」
聞き覚えのある声だ。
「いきなりどこかに行っちゃうもんですから慌てたじゃないですか」
今まで自分と大竹を探していたのだろうか。その息は苦しそうにあがっている。
しかし、今は彼女の顔を直視できる自信が、資格がない。
「……そんな所で雨に打たれていたら風邪を引いちゃいますよ」
心配そうな彼女の声を掻き消すように、雨はますます強くなる。
「……悪い。放って置いてくれ」
ようやく聞こえる位の、か細い、小さな声で呟いた。
「そんな所に放っておいたら死んじゃうじゃうかもしれないじゃないですか」