ぶりとらぶ

ファイブ

ファイブ

彼女はどこか、いや恐らく本気で怒っているのだろう。真剣な口調だ。

「……それでもいいんだけどな」

呟きながら顔が自虐的に歪むのを自覚する。

「とにかく、先輩には関係ない。だから放って置いて下さい」

雨に掻き消されるそうな小さな、小さな声。

「……わかりました。じゃあ深山君のお好きなように」

彼女はとうとう自分に愛想をつかしたようだ。

……これでいい……

……ここで死ぬのが一番いいんだ……

心に、そう言い聞かせる。

「ですから、私は、私のしたいようにさせてもらいます」

むっ、とした口調で葵が言うのと同時に、体が彼女に支えられている事に気付いた。

「……なっ!先輩っ!」

「これは、私がやりたくてやっていることです。深山君の意思は関係ありません」

彼女はそう言いながら緋影を肩に背負う。

傘からはみ出した彼女の体も冷たい雨に打たれる。

「うわっ?!一体どれくらいの間雨に打たれていたんですか?すごく体が冷えていますよっ!」

葵は緋影の体があまりにも冷たく、びっくりしているようだ。彼女を振り払おうとした緋影だったが、今までの蓄積された疲労がどっと出たせいか、振り払う事は出来なかった。

否。彼女の体温だけが、この時の緋影に感じられる唯一のものだったから。