シックス
シックス
緋影は彼女がにっこりと笑うのを虚ろな瞳で見ていた。
葵の住んでいるアパートは、緋影と同じ様な六畳間の少しさびれたものだった。
「ええっと、それじゃこれで体を拭いて下さい。私はお風呂を沸かしますから」
彼女は緋影にバスタオルを渡し、スリッパをぱたぱたと鳴らして風呂場に向かった。
やはり女性の部屋だけあって綺麗なもので、きちんと整理されている。
どうと言う事のない風景。
ごく普通の生活感のある部屋。
……自分がつかむ事は、もう適わない平凡な日常……
……その幸せを、自分は奪ったっ!
母親の幸せを、自分は奪った!壊した!
小川美奈の命を、略奪した!破壊した!
理不尽に!残虐に!
……自分は、今、こんな事をしていていいのか?
……先輩に心配してもらって、こんな事をしていて……
「深山君っ!何ぼおーっとしてるんですかっ!」
怒ったような、困ったような表情で葵は詰め寄り、バスタオルで緋影の濡れた体を拭いていく。
「もうっ!子どもじゃないんですからしっかりして下さいっ!」
「……先輩、いいよ。自分で拭ける」
緋影はぼそぼそとそれだけを言って、葵の手からゆっくりとバスタオルを受け取った。
彼女はその行動を心配そうに見つめたあと再び風呂場に行く。
ゆっくりとだが、バスタオルで緋影は自分の体を拭いていく。
「拭き終わったら、これを着てください。サイズが合いませんが、濡れた服よりはまだいいでしょう。上着代わりにはそこにある毛布を羽織って下さい」
いつのまにか葵は着替えを持って来ていた。彼女はてきぱきと動いて次にすべき事にもう取り掛かっている。
緋影は冷えた手で、のろのろと着替え始めた。