笑み
笑み
「いねえな」
「…………」
大竹のぼやきに対し、緋影は無言だ。その表情には焦りが浮かんでいる。
最後に見た彼女の虚ろな様子。
あれはおかしい。
彼女は人の呼び掛けを無視するような性格ではない。あの距離で自分の声が届いていない、というのは少々考えにくい。
「ああくそっ!いらいらするっ!」
大竹は大声を出す事でストレスを発散し始めた。
「やめろ、みっともない。大体捜索を始めてまだ一時間も経ってないぞ」
二人が捜索を始めたのは午後七時。
悪友の大声を聞きながら緋影は気が滅入ってきた。
大竹はとにかく大雑把、短気、なにかしら動いていないとすぐに苦痛を感じる人間だ。そんな彼がこうやって地道な捜索を続けるのは苦痛以外の何物でもなかった。
「わかってるよ、んなこたぁっ!でもなぁ、じゃあ何で昼間あんなに聞き込みをして小川の情報がぼろぼろ出て来たのに、今日は全く見かけないんだよ!」
見るからにいらついた様子で大竹は続ける。
「……何もなけりゃいいんだが」
声は次第にぼそぼそとした呟き声になっていく。
「うがああああああっ!くそっ!」
「何をしているんですか、大竹君?」
聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
この場を全力で逃走しろ、と脳に命令を送るが凍ったように足が動かない。
緋影と大竹はブリキの人形のように、ぎこちなく首を後ろに向ける。ぎぎぎぎぎ、と不気味な音が聞こえてきそうだ。
「せ、先輩……」
二人の声が見事にハモる。
「こんな所で何をしているんですか?」
「い、いや〜ちょっと散歩を……」
「そんな格好でですか?」
葵は夜の散歩に出るにしては妙に軽快な二人の服を指差した。
怒った表情で問う葵に対し、大竹は愛想笑いを浮かべる。
彼女はほっ、と胸に手を置いて一息つき、
「散歩なら一緒に帰りましょう。夜はあまり出歩かない方がいいですよ」